鰐等大喜利
お題
劇団オタクの舞台を見て、どうでしたか?
「ええ、そうです。
わたくしは最初から、最初から愛されてなどいなかったのです。」
伯爵夫人の弱々しい声が劇場に響き渡る。

舞台奥の壁掛け時計(真っ黒く塗りつぶされている)は、
夫人に呼応するように小さく揺れている。
地震だ……。

「昨晩、わたくし宛てに匿名の手紙が届きました。
手紙は匿名でした。」

夫人は静かに立ち上がり、傍の肉切り包丁に手をかける。
気狂いコックの川崎が置いていった、放置用の包丁だ。

ーーードラゴン水差しが火を吹いた。

「お気を確かに、夫人!」
例の赤ナスが静止を試みるものの靴の重みで一歩も動けず、尻餅をついている。

「殺さないで!」
騎士団長の鎧が、恐怖で崩れ落ちる。

「結構前に火事があって、おじいさんが死んだらしいです。ヒェー……!」
大島てる読んでる人が、酷い目にあっている。

ーーードラゴン水差しが、火を吹いた。

「いかがですかぁ……」
オタクくんは、真っ直ぐに舞台を見据えたまま私に問いかける。
「僕はね、昔から悲劇と喜劇の区別がつかないんです。
悲劇と喜劇と、バレリーナの区別がつかないんです。」

オタクくんが初めて、産まれて初めて私の目を見つめて話してくれた。
ありがとうございます。
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3点 ABC
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3点 予備校
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2点 遠くを見ている
3点 マイ華
3点 pokopoko
4点 564
2点 坂本
2点 暴力装置

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